第四回 土屋ディレクター
J SPORTS online shopがお届けするワールドカップ直前特集ページ「私の記憶の中のワールドカップ」
J SPORTSの放送でもお馴染みのサッカー解説陣を中心に、記憶に残るワールドカップの名勝負や、オススメの大会について語っていただきました。
第四回はサッカー情報番組「Foot!」の土屋雅史ディレクターにお話を伺いました。
J SPORTS online shop(以下shop):本日はお忙しい中ありがとうございます。
DVDをご覧になってみていかがでしたか?
土屋ディレクター(以下土屋):一番興味があった1986年を見ました。
86年は、自分が初めて見たワールドカップで、かろうじて覚えています。
実際の試合内容はそんなに覚えていないけど、デンマークがセンセーショナルな活躍をしたのを覚えています。エルケーアという赤鬼のようなゴリゴリいくFWの選手がいて、雑誌の切り抜きをカンペンに貼ったりするくらいエルケーアが大好きでした。
1986年大会DVDにもエルケーアが出てきたので、改めてエルケーアの偉大さを感じました。
shop: その頃のワールドカップは日本にとってどのような位置づけだったんでしょうか?
土屋: 日本が出られるような大会ではなかったと思います。
85年のワールドカップ予選の日韓戦の際、木村 和司(現横浜マリノス監督)が、すごいフリーキックを決めた試合というのがありました。
そんなこともあり、それまでのワールドカップと比べて、日本のサッカー好きが強くワールドカップを意識した大会だったんじゃないかなと思います。
shop:日本が出場した1998年、土屋さんは何をされていましたか?
土屋:大学1年生でした。全試合ライブで観ようと思ってたのですが、遊んでいて見られない試合もありました。
当時はあんまり強豪国とか関心無かったですね。
強豪国だとヨーロッパのリーグ戦でも見られるけど、アフリカとか南米のあまり強くない国がワールドカップだと見られるので楽しみにしていました。
特に90年、94年、98年くらいまでそういう気持ちがあって・・・その頃はナイジェリアを応援していました。
当時ナイジェリアは強かったんです。
1998年大会のグループリーグでスペインに3−2で勝って、これはもしかしてかなりいいところまでいくかもと思っていましたが、決勝ラウンドの一回戦でデンマークに負けてしまうんですね。
夜中の3時、4時にキックオフだったと思うのですが、不覚にも寝てしまって・・・。
目が覚めたら4−1で負けてたんです!
まさかそんなところで負けるとは思ってなかったから、信じられない気持ちだった。
そこで私の心のワールドカップは終わっちゃったんですよね(笑)。
ただ、その後デンマークはブラジルに準々決勝で3-2のすごく良い試合をしています。
デンマークは元々ポテンシャルもあったし、強いチームです。
ただグループリーグの時はそんなにいい出来じゃなかった。
それに比べてナイジェリアはすごくグループリーグの出来が良かったから、まさか負けるとは思わなくて・・・悔いが残るよね。
それ以降その試合は、頑なにビデオでも見ていません。
Shop:本当にナイジェリアが大好きなんですね。
土屋:僕が一番好きなナショナルチームはナイジェリアなんですよ。
僕がオススメしたい大会は二つあって、そのうちの一つが94年大会です。
この大会にナイジェリアが初出場しました。
初戦のブルガリア戦は3−0でナイジェリアが勝利します。
1点目を獲ったのはイエキニという選手だったのですが、ゴールの直後、ゴールネットを掴んで『ウオーッ!!!』と興奮して叫んでいた姿が、すごく自分にとってセンセーショナルでした。
そのパフォーマンスがすごくアフリカらしいというかワイルドで、ほとばしる情熱がそのシーンに凝縮されていたんです。
2点目はアモカチという選手が、ゴール前でキーパーともつれたんだけど、すごい速度で立ち上がって思い切りドカンとゴールしたんですよ!
その立ち上がる速度とドリブルで出すボールの感覚の違い、ヨーロッパの選手にはない間合いの取り方が本当に見事な2点目でした。
3点目はアムニケという選手が、ものすごいエビゾりみたいな体勢からヘディングを見事に決めていました。
その3点だけでも心を鷲掴みにされた人は多いと思いますよ。
そのくらい面白いチームだったし、もうそれだけで自分も大ファンになりました。
次戦のアルゼンチン戦では、シアシアという選手がすごいきれいなループを決めて、先制しますが、アルゼンチンのカニーヒアが、マラドーナからパスを受けてゴールを決めて、結局逆転負けしてしまうんですが・・・
最後はギリシャに勝って、決勝トーナメントでイタリアと対戦します。
イタリアはバッジョがいたのですが、ケガを抱えていたこともあり、グループリーグは不調でした。
その試合もナイジェリアのアムニケがコーナーからポコッと決めて、ナイジェリアがこのまま勝つのかという時に、なんとバッジョが残り2分くらいで同点ゴールを決めます。そしてその後も延長でバッジョがPKを決めて、イタリアが勝利します。
バッジョにとってはあの試合がターニングポイントになっていたと思います。
今回、南アフリカ大会が開催されたのも、アフリカ勢が上位に進出してきたからというところが大きいと感じています。
アフリカ勢の中から強豪チームが出始めたのが、90年のイタリア大会だと思っています。この大会は私がオススメしたいもう一つの大会です。
当時、祖父に90年大会の「50ゴール」と言うビデオを買ってもらって繰り返し見たので、この大会はどの試合もどのゴールもぱっと思い出せるほどよく覚えています。
この大会でカメルーンが開幕戦でアルゼンチンと対戦するんだけど、前回優勝国で、マラドーナもいたアルゼンチンに退場者を2人出したカメルーンが勝利します。
このとき、オマン=ビイクという選手が得点を取るのですが、アルゼンチンのDFの頭の位置に腰がくるくらいのものすごいジャンピングヘッドでゴールにダンっと叩きつけました。
開幕戦ということもあり、すごく注目された試合で、『カメルーンてこんな奴いるんだ。カメルーン強いんだ。』と世界中にカメルーンの強さが印象付けられたと思います。
カメルーンは結局グループリーグも勝ちぬけて、決勝トーナメントにも出場します。
決勝トーナメント一回戦はコロンビアとの戦いだったんだけど、コロンビアには金髪アフロのバルデラマというMFと、長髪に髭のイギータという、風貌がものすごく個性的な二人組が居て(笑)。
当時まだバックパスを手で取っていい時代で、キーパーが足技を要求される時代ではありませんでした。
イギータはペナルティエリアをぼんぼん飛び出して、下手したら相手を抜いてしまうようなGKだったんです。
90年の段階でイギータは時代を先取りした、足技が使える選手だったので、その大会でもかなり注目をされていました。
決勝トーナメント一回戦のコロンビアvs.カメルーンは生で見てたんだけど、イギータがハーフウェーライン付近でボールをトラップしようとしたら、それをかっさらわれてゴールを決められたんです。
それが結局決勝ゴールになるんですが、この試合は自分の中でベスト3に入る試合になんですよね。
その試合でゴール決めたのは、ロジェミラというおじさん選手で、本当は元々代表に入る予定じゃなかったのに、大統領が無理やり権力を使って代表にしたというエピソードがあります。
急遽指名を受けて、結局活躍しちゃったんですよね。
90年のカメルーン、94年のナイジェリア、98年もナイジェリアが強かった。この流れがあって2002年はセネガルがベスト8に入ります。
2006年はガーナがベスト16で、ブラジルに負けたのがアフリカ勢の最高成績だったけど、ようやくアフリカ勢がグループリーグを抜けて決勝トーナメントに出れるようになったというのが、間違いなく今回の南アの大会につながっています。
その一番最初のアフリカ勢の躍進がこの90年のカメルーンだと思うんです。
90年大会は一般的にはつまらない大会だと言われています。
大会全体の総得点数も少なかったし、決勝戦もPK1本で勝負がついた試合だったから、あんまりこの大会を面白いと言う人はいないんだけど、自分にとっては初めて本腰を入れてオンタイムで見た大会だし、祖父に買ってもらったビデオで10年間繰り返し見た大会だからイチオシです!
shop:90年大会の選手達は、Jリーグにも多く来ましたよね?
土屋:そうそう。各国の主力が指折るくらいJリーグに出てきました。
リトバルスキーや、スキラッチというこの大会の得点王、ジョルジーニョやドゥンガやベベットもそうですね。特に90年大会の主力選手は、その後Jリーグにたくさん来ていると思います。
それにワールドカップの得点王は、結構Jリーグに来ているんです。
86年のリネカー、90年のスキラッチ、94年はブルガリアのストイチコフという選手達で、3大会連続でワールドカップの得点王がJリーグに来ました。
世界に名だたるスターが、みんな日本に集まってきていた時代でしたね。
そういう意味では90・94年大会は日本のサッカー好きが、日本のスタジアムでJリーガーとして見ていた選手たちが活躍している大会という見方も面白いかもしれない。
オシムもこの大会はユーゴスラビアの監督をやっていて、もしかしたらカメルーン以上にサプライズで高い評価を受けたかもしれないですね。
大会ベストゴールはストイコビッチだと思っていて、決勝トーナメントの1回戦で強豪のスペインと対戦して2-1で勝って、2点を両方ストイコビッチが獲るんだけど、1点目は左からあがってきたセンタリングをキックフェイントでトラップして、その間にスペインのDFが引っ掛かって、2人流れていったところでストイコビッチが冷静にゴールを決めるの。
これが自分の中のベストゴールかな。
Shop:日本でのワールドカップは見に行かれたのですか?
土屋:2002年日韓大会は2試合見に行きました。
2002年は大学卒業する年だったんだけど、サッカー馬鹿だったからどうしても学生でワールドカップを見に行きたくて、わざと8単位落として自主留年しました。
当時は普通の学生だったから抽選でチケットを取りました。家族4人分と今の奥さんの家族の名前を使って、ようやく2試合分のチケットを入手しました。
まずはロシアvs.チュニジア。
家族で見に行ったんだけど、社会人になったら家族で旅行する機会が少なくなると思っていたし、試合が神戸だったので、試合に行くついでに家族で観光ができたり、ご飯を食べにいったりとか、ホテルに泊まったりとかすごく楽しかったですね。
母親がすごくノリノリでチュニジアという縁もゆかりもない国を応援していて・・・
普段そういうことをしない人なのにそれを見てワールドカップってすごい影響力なんだな、と思いました。土屋家にとってはすごくいい思い出です。
shop:すごくよくわかります!うちもそうでした。
2002年大会は家族で一丸となって応援していました。
土屋:お祭りだからね。サッカーには本来そういうところがあって、Jリーグでもアウェーに家族で応援しに行ったりすることってあると思う。
親も見に行きたくて、子供を休ませてでも見に行きたい!そういうハードルも乗り越えちゃうのがワールドカップなのかもしれないよね。
2002年大会にはもう一つ思い出があって、本戦でナイジェリアの試合を見ることはできなかったのですが、マリノスとの練習試合を平塚で見ることが出来たんです。
その日は就職の面接だったんだけど、面接をそこそこに終えてスーツからナイジェリアのユニフォームに着替えて妹と一緒に平塚まで見に行きました。
初めて生でナイジェリアを見られるチャンスだったから、すごく嬉しかったな。
ワールドカップじゃないけど、ワールドカップにまつわるエピソードとしてすごい記憶に残っていますね。
shop:今回もそういう雰囲気の大会になるといいですよね。
土屋:そうですね。
ただ、今回は世界で一番治安が悪いと言われている国で開催されますから・・・
次のブラジルも世界で2番目に治安が悪いという国で開催されるし、日本人としては行きにくい場所ではあります。ただ、ブラジルでワールドカップが開催されると言ったら、絶対に全世界中が盛り上がります。
ブラジルで行われるのは1950年以来なので、64年ぶり。
『決勝でウルグアイに負けて、スタジアムで何人もの人が心臓麻痺で亡くなった』というサッカー大国ぶりを表すエピソードもあるような国なので、2014年は南アフリカとはまた違って治安の悪さも乗り越えてしまうような、楽しみなワールドカップではあります。
Shop:日韓大会の時にもう一試合見た試合は何戦でしたか?
土屋:アイルランドvsサウジアラビアを横浜国立競技場に見に行きました。
当時強かったリーズというチームにアイルランド人選手が何人かいることを知っていたので、リーズのユニフォームをスタジアムに着て行きました。
アイルランド人が喜ぶんじゃないかと思って(笑)
そうしたら、やっぱりアイルランド人がものすごく関心示してくれました。
英語だけど、とりあえずチーム名と選手名さえわかればなんとなくコミュニケーションできるから、自分が知ってるリーズにいる選手の名前を3人くらい言ったら、ものすごい反応が返ってきて、みんなで踊ったり飲んだりして盛り上がりました。
そういう交流ができることもワールドカップの良いところだと思います。
反対にそういう縁もゆかりもない異国のチームを応援することがなければ、ワールドカップの楽しみも半減すると思うし、世界大会を催す意味があるのかとも思います
世界中の人が集まって、世界中の人と交流できるのがワールドカップですよね。
【編集後記】
取材中に、まるでその試合を目の当たりにしているかの如く流れるような言葉で、試合内容や選手について解説してくださった土屋ディレクター。
サッカーにかける情熱は、ショップスタッフの想像をはるかに超えていました。
アフリカサッカーのすばらしさや、サッカーの歴史、初期のJリーグ等々、サッカーに対する博識ぶりに脱帽です!!
サッカー観戦の良さは、人との交流が生まれるところにもある、という言葉に深くうなずきました。
家族や友達とはもちろん、観戦の場の雰囲気にまかせて出会った人と会話をするのも楽しいですよね!
まもなく開幕する2010年ワールドカップ。
その前に自分の思い出のワールドカップをDVDで振り返り、会話にひと花咲かせてみるのはいかがですか?
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